これまで人生で一度も旅の目的など考えたことがない。これまでの旅の目的は強いてあげれば物見遊山だったからだ。
これからの自分の旅も物見遊山には違いないが、おそらくその大半はこれまで訪れた旅先の再訪になるのだろう。というのも私は齢六十を目前にしている。残されている時間はそう多くはない。
新しい旅先よりも自分がこれまで生きた場所を、土地を、体が動くうちにもう一度この目に焼き付けておきたい。
体が動くうち、気力が衰えないうち、死の直前にベッド生活になる前に、今一度、自分が生きた場所を心に刻みこみたい。
最近はそんなことを考えている。