入院中に実施していたうつ病をターゲットとする運動療法のひとつ ECT (持久力持続トレーニング) についての気づきを残す。記載内容はあくまで療法を実施した一患者の所感であり医学的エビデンスを提供するものではないことに留意されたい。
うつ病に運動療法が有効であることは臨床の世界ではかなり以前から知られている。近年うつ病がどのような疾患であるのかが脳生理学やゲノムレベルで判明しつつあり BDNF (脳由来神経栄養因子)、Nrf2 などの体内タンパク質等がうつ病への理解と治療上のキーワードとなっている。
人が長期に渡り強いストレスに暴露され続けると脳神経細胞がダメージを受けて脳の白質と呼ばれる部位の体積が減少し、うつ病や双極性障害が発症することが知られている。
BDNF がダメージを受けた脳神経細胞の修復を助け、Nrf2 が脳神経細胞にダメージを与える炎症反応や酸化ストレスの低減に役立っていることが近年の研究により明らかになっている。
つまり BDNF や Nrf2 の活性化はうつ病の改善に寄与することが明らかになっている。
これまで見てきたように BDNF、Nrf2 が活性化するとうつ病の症状が改善するのだけれど、ECT や HIIT (高負荷インターバルトレーニング) が有意に BDNF、Nrf2 を活性化させることが近年明らかになっている。
上記のような生理学的メカニズムにより脳の神経細胞が修復されうつ病の症状が改善する。つまり運動療法によってもうつ病の症状は改善する。
ただし運動療法を行うことで薬物療法やその他の治療法が不要になるほど人間の仕組みは単純でないことは強調しても強調しすぎることはない。そのことには厳に留意されたい。
標高 110m の病院から標高 190m の目的地まで、可能な限り心拍数を極大化する強負荷走とインターバルとなる低負荷走を繰り返すインターバル走を行った。実際には身体の障害によりランは不可能であるため可能な限り心拍数を上昇させる速歩で代替するワークアラウンドを実施した。実施内容はおおよそ以下のものとなる。
研究目的ではないため未計測。
研究目的ではないためうつ病スコア未計測。
実施地が丘陵地帯の山間部であるため爽快感がある。また目的地に到達することによる達成感とカタルシスを感じることができる。更には当然ながら身体の運動能力が向上する。
うつ病の改善、予防に運動療法が効果を発揮するというエビデンスがすでにある。精神疾患の予防、改善のために生活に積極的に運動を取り入れるのは望ましいと思われる。
心拍数を追い込むことが前提になるが、ラン、インターバルトレーニング、水泳、サイクリング、登山、ハイキングなどは生活に取り込みやすいアクティビティだと思われる。
課題として障害や症状の強度、加齢等により強い負荷での運動療法が不可能な場合が考えられる。仮にそのような場合であっても主治医、理学療法士、作業療法士にアドバイスを求め、自身に適した運動習慣を生活習慣に組み込むことが心身の健康増進だけではなく QOL (Quality of Life) の向上にも結びつくのではないだろうか。